虎飛び出し注意

9

 翌日――と飛ばしてしまいたいところだったが、ただのクラスメートならまだしも、寝起き以外のほとんどを共にしている相手との数時間のうちに、特筆すべきことが全くないはずがなかった。
 議論の余地を残したままでそれを黙殺するには、二人は仲がよすぎたのだ。
 しかも竜児の方は投げっぱなしであったから、その日学校であったことも含めて、何事もなかったかのよう過ごせと言われてもどだい無理な話だった。
 高須竜児。デリケートな男である。
 デリケートゆえに、つい議論の先送りをしてしまったのであり、デリケートゆえに黙っていることもできないのだ。
 とは言うものの、この場合竜児が黙っていたところで、相手は黙って済ませるような生半可な人格をしていはしないのだった。
 全てひっくるめて分かった上で、竜児はもはや、なるようにしかならないだろうという、案外気楽な思いで買い物を終え、借家の階段を上った。
 ドアを開けて、ぱちくり。
 ちっこいのが踏み台に乗り、流しで米を研いでいる。
「あ、竜児! おかえ――」
「間違えました」
 閉じろゴマ。
「やれやれ、疲れてんのかね、ボーッとしてたんだな、家を間違えるなんて。ははは」
 カツンカツンと音を立てて階段を下り、地面を踏んだ途端折り返してまた上る。
「いや、うちだぜ! 我が家だぜ!」
 見間違い。きっとそうだろう。ボーッとしていたから。ありもしないものさえ見えてしまう。まさかそんなことがあるはずが。
「っぁわったー!」
 あった。
 ドアの向こうには、炊飯器とにらめっこする虎の姿があった。
「ななななななたたたたた大河、大河お前ななな何ししし」
 三和土にくずおれる竜児だったが、卵の入ったお手製エコバッグを無意識に庇う。MOTTAINAI精神が根づいているのだ。
「あ? 聞こえないわよ。はっきり喋んな!」
 慌てふためく竜児に気勢を殺がれる様子もなく、大河はいっそ竜児に似てきたのではないかと思えるほどの鋭い目つきで睨みつける。
「はーあ。あんたが帰ってくる前に終わらせとこうと思ったのに。このポンコツ炊飯器どうやったら動くのよ!?」
 竜児は、自分が帰ってきた時点でまだ米を研いでいたなら遅れたのは炊飯器のせいではないと喉元まで出かかったが、堪えてやる。
「コンセントを差して炊飯ボタンを押すだけだけど。炊く前に最低三十分は浸けておけ。充分に水を吸わせた方がふっくら炊きあがる」
 家事に関しては歪みない竜児である。
「ふーん。そうなんだ」
 すぐに炊いちゃダメなのね。大河は感心したように腕組みし頷き、覚えとくわ、などとブツブツ言っている。
「泰子もなあ、テレビなんかよりまず炊飯器を新調してくれりゃよかったのに。洗濯機も捨てがたいんだが。新しい家電は消費電力が段違いだし……」
 へたりこんだまま呟いた竜児は、ふと顔を上げた。
「大河お前何してんだ?」
「ああ!?」
 大河は吼えた。
「かっ! 見て分かんないの脳みそスポンジ犬がっ! 見たままのこと言ってみな!」
「大河がご飯を炊こうとしている」
「そのとおり!」
 間。
 誇らしげにふんぞり返った大河と訝しげに猫背の竜児。しばし見つめあう。
「ええっ!?」
「遅い!」
 どこかで見たくだりを繰り返して、竜児はおののき、大河は一足飛び。竜児の膝を踏み台に膝蹴りをヒットさせる。
「シャイニングウィザード……」
「ちょっと竜児! 卵が落ちる!」
「おう! いかん!」
 飛びかけた意識を主夫の魂が呼び戻す。
「あーん竜ちゃん、おっかえりぃ」
 ドタバタしているうちに湯上がり泰子が登場する。
「や〜ん! 大河ちゃんご飯炊けたの〜」
「うん! あとはスイッチを入れるだけだよ」
「炊けてはいないな」
「うっさいのよあんたは! 細かい男はみじん切りにするよ!」
「乱切りしかできねえくせに……」
 腿のあたりを踏みつけていた小さな足をどかし、立ち上がる。何とかショックからは立ち直りつつあった。一応大河に米を研がせたことは以前にもあったのだ。かといってまさか自主的に始めるとは思いもよらなかったが。
 何が目的だ。言いかけて、竜児は言葉を呑み込む。先ほどの北村の台詞がよぎった。
 見返りは、何か具体的なものではないのかもしれない。亜美に対しては先日、プロレスショーの役を代わってもらうために無理矢理お菓子を食べさせる強引な手口に及びはしたが、今まで竜児もしょっちゅうそんな目にあったかと言うと、そうでもなかった。代わりに父親に会わせられたときは、実際頼みを聞いたあとに皿洗いをしてくれたし(あれはあれで強引ではあったが、そもそも『代わりに何かするから』なんて大河に言わしめた状況が特殊だった)、もとより竜児は、別に見返りがなくとも大河の頼みなら大概聞いてやっているのだ。
 大河だって、竜児に対しては遠慮会釈なしにあれをせいこれをせいと正当な権利であるかのように命じるだけだったではないか。
 今のところ、言葉では何も見返りも求められてはいない。大河が無言実行で家事を買ってでただけである。見れば昼休みの発言どおり流しには朝食の食器は残っていないし、泰子の昼食の皿さえない。しかも洗った食器はきちんと拭いてしまわれているようだった。
 理由を問えば逆ギレされかねないほどに。さも当然とばかりに。
「ほれ、あんたはさっさと晩ご飯を作る!」
「お、おう……」
 調子が狂ってしまう。手伝ってくれようとする気持ちは嬉しいのだが、意外さと驚きが先行してどうリアクションをとったらいいものやら分からない。
 そしてまた、手伝ってくれながらも、大河の態度はほとんど半ギレというか、やけっぱちというか、必要以上にとげとげしいのだった。竜児が見つめると、何やら慌てたように目を逸らす大河。もしかしたら照れているのではないだろうか。素直に、何か見返りがほしいわけではなくただ単純に手伝いたいと言うのが恥ずかしくて、竜児に対して乱暴な口を聞くのではないだろうか。
 というのが竜児の考えで、推測から結論にまでたどりつくこともないまま、やっと身体が動きはじめて、エコバッグから今日使わないものを出して冷蔵庫へしまう。
 竜児の考えは、半分正解で、半分不正解だった。
 照れ隠しなのは本当、手伝いたいというのも本当なのだ。ただ、底に流れる思惑は少し事情が異なっていたのだが。
 着替えて手を洗った竜児を待っていたのは、踏み台の上に仁王立ちの大河。それでやっと頭が竜児の鼻まで届くくらいだったが、いかにも意気軒昂、どこからでもかかってこいといった様子で、腰に手をあてている。
「さあ!」
 大河はその手を大きく広げて、竜児に向かって伸ばす。
「…………?」
 竜児は眉根を寄せて首を捻ること三秒。自信なさげに大河の腋の下に手を入れ、ひょいと持ち上げる。
「高い高ーい……?」
「わーい、高ーい。ひゃっほー……って! んなわきゃあるか!」
 ノリツッコミのアペリティフ。メインディッシュは竜児の顔面両足挟み風。軽々と持ち上がった両足が、竜児の顔を押し潰さんばかりの勢いで挟んだ。挟んだ上で、猫が肢を突っ張るように目いっぱいその脚を伸ばそうとする。
「危ね、危ねえって、お前が落ちるだろ!」
「黙ってお放し!」
 竜児に持ち上げられたまま、その顔面を両足でぐりぐりこね回す。俺はうどんじゃねえ! と咽喉元まで出かかる竜児。
「うえっ! 口の中に入っちゃった! ばっちい!」
 この世の終わりのような顔で脚を縮めた大河を、竜児は踏み台の上に戻してやった。
「なんだよ。何なんだよ。一体何がしてえんだお前は!」
「はーったくもう、これだからあんたは低能鈍犬野郎なのよ! やっちゃん! やっちゃんからも何とか言ってやって!」
 大河は竜児越しに居間に呼びかけた。竜児が振り返ると、泰子は既に目のやり場に困るお仕事服に着替え、鏡に向かって武装(化粧)している最中だった。若い母親から夜の蝶への華麗なる変身中、もとい製作工程である。素顔だってまだまだ若いのだが、息子としては、当初などは化粧前後のギャップに、化けるもんだよなあという感想を禁じえないまま十余年が過ぎ、今ではそのけばけばしいメイクの仮面もまた母の顔として認識されている。
 呼ばれて泰子はふにゃあっと笑い、
「そうだよぉ竜ちゃん、大河ちゃんをよぉ〜っく見てごらん」
 言われるがままに大河に視線を戻す竜児。凶悪な外見とは裏腹に従順な男である。
 大河は見られて、フンッ、とない胸を張る。いつもと違うことと言えば。一つ、髪を結わえている。泰子に結ってもらったのだろう。もう一つ、腕まくりをしている。最後に一つ、台所に立っている。
 ポンと掌を打つ竜児。
「ごめん全然分かんねえ」
 眼前で大河がよろめき、背後で泰子の倒れる音が聞こえた。
「あ、あんたねえ!」
「いや、いやいや、さすがに冗談。分かった、分かったよ。大河、お前、夕飯の支度を手伝ってくれようってんだな?」
「オウ! イエス!」
 なぜかアメリカンなリアクションでハイタッチ。
「おう」
 大河が笑う。それだけで胸にじんわりと温かいものが広がるのだ。竜児は戸惑いつつもこの決して不快ではない気持ちに、やっと気を取りなおすことができた。四の五の考えても分からないものは分からない。大河に関して確かなのは、いつだって一つのことだ。
「この私が手伝ってやるからにはただでは済まさないよ! さあじゃんじゃんじゃかじゃか手伝わせなさい!」
「いや、普通に済ましてくれよ」
 竜児は自分のエプロンを外して、代わりに大河に着けてやる。
「ちょっと、要らないわよ別に。でっかいし」
「いいから着けとけ、その死ぬほど高そうな服が汚れちまったらもったいない」
「……ったく、せせこましいんだから」
 言いつつ、大河はなすがままにさせている。後ろを向かせて紐を結ぶ。相変わらず世話をされ慣れているというか、竜児に世話を焼かれるときは当たり前のように焼かれっぱなしだった。
 当たり前なのだ。大河にも竜児にも、その関係が当たり前。昼休み以外ほとんど一緒に過ごさなかったせいか、大河の後姿に、いつも目線の下にあるふわふわした頭頂部にひどく安心する。ざわついていた心が、それだけで落ち着いてしまう。
 核心はすぐ目の前にあるような気がした。それは今までずっと、手の届くところにあったのだ。
「よし、と。じゃあそうだな、卵を……いや、お前、サラダ作れるって言ってたよな。レタスを食べやすい大きさにちぎって冷水にさらしてくれ」
「卵? まいいか。任しときな!」
 大河は張り切ってレタスをちぎりだす。食べやすい大きさと言うか、どう見ても考えなしのランダムカットだったが、竜児は黙ってボウルを出してやり、自分は手鍋を出して卵を茹ではじめる。
 ドレッシングをかき混ぜる。箸を並べる。サラダやおかずを盛りつける。大河のお手伝いといえば、火も包丁も使わない、せいぜいそんなところだったけれど、それでも大河は真剣そのもの。竜児だって、鼻歌が出るくらいに楽しかった。
 夕飯を済ませて泰子を見送り、洗った食器を大河に拭いてもらいつつ後片づけを済ませる。その間も大河は、竜児、お皿洗うの上手いんだね、とか、初めてまともに手伝いをして、やることなすことが新鮮な様子で、飽きもせず竜児竜児とはしゃいでいた。

 はしゃぎすぎた――というのは、片づけのあと湯呑みを掴んでテーブルに突っ伏した大河の口の中で噛み殺した呟きだった。全然そんなつもりはなかったのだ。完全に、これじゃルール違反だ。
「なんだ、疲れちまったのか」
「……そんなようなもんね」
 大河は今朝実乃梨と交わした会話を思い出していた。大河は、実乃梨と共に、自分の欲しいものを認めて、それを手に入れるために全力を尽くすことを約束したのだ。
 けれどもそれは、お互い口には出さなかったけれど、そもそもからしてかなり大きなハンデがあった。もとより、前提条件から不公平なのだ。大河は、周回遅れの実乃梨に向かって、一緒にゴールを目指そうと申し出たのだ。無論実乃梨もそれは納得ずくで、その勝負を受けて立ったのだが。
 大河はもうそのゴールに手が届く位置に居る。実乃梨も叫べばきっとその声はゴールまで届くだろう。けれど、それが果たして、間に合うのかどうか。
 つまり大河は今、既に確信があったのだ。竜児の実乃梨に対する想いは本物だったが、それはもう絶対とは言い切れない。秘めてきた想いを嘘にはできるはずもないけれど、結局は明かされていない、通じあったことのない気持ちなのだ。二人の目が合ったときには、実乃梨が竜児の存在を感じはじめたときには、大河は竜児のスペースを概ね占領してしまっていた。実乃梨が自分の気持ちを明かしたとき、竜児はそれにどう応えるというのだろう。薄々は竜児もその自己矛盾に気づいているはずだ。
 竜児も大河も、遠くを見ながら歩いていたら、いつの間にか二人して同じ、ひどく居心地のいい場所に立ち止まっていたのだ。その存在を、何物に代えても守りたいほどの場所に。
 でも大河の心の中には、相反する気持ちが存在していて、竜児を独占したい反面、実乃梨と上手くいってほしいとも本気で願っていたのだ。それは今になっても、消えることなくしこりとなって小さな胸の中に残っている。
 だからこそ、大河は実乃梨の手を引っ張った。それはつまるところ、大河の自己満足なのかもしれない。自分が納得したいだけなのかもしれなかったが、そんなことはきっと承知で、実乃梨はコースに戻ってきたのだろう。実乃梨もまた、きっと、納得が欲しいのだ。
 どちらにしても、このどうしようもなく大きく口を開けた溝を、大河は少しでも埋めたいと思い、考えに考えぬいて、自分の中で一つのルールを作ったのだった。
 作ったつもりだった。
「……失敗した」
「なにがだよ。サラダ、ちゃんとうまくできたじゃねえか。食器も割らなかったし、ケガも」
「あー……違うのよ。なんでもない」
 勝負は勝負。だからアプローチはする。竜児の目を自分に向けさせる努力はする。でも、態度を変えるのはよそう。大河はそう自分を律したのだった。正直に言ってしまえば変えるといってもどんな態度をとったらいいかすら分からないが、取り敢えず現状維持。精一杯つんけんしてやろう、と思ったのだ。
 思ったのだが、どうにも上手くいかなかった。竜児の手伝いをするのが思いのほか楽しくて、ついはしゃいで、最初は維持できていたツン成分が、途中からどこかへ行ってしまった。つくづく竜児と一緒に居るのが好きなのだと思い知らされただけだった。
 竜児は竜児でご機嫌である。どれだけ少なく見積もっても、大河が手伝いをしたということ以上に気分よさそうにしている。当然だろう。竜児はいつでも優しいが、大河が態度を和らげれば、竜児だって眉間にシワを寄せる必要はないのだ。目つきばかりはそれこそどうしようもないが。
 大河の目論見では、あくまでクールに、あんたが余りにも哀れだから手伝ってやるわよ、なんていう感じで淡々と手伝うつもりだったのだ。
 なのに、エプロンを着けてもらった辺りから舞い上がってしまった。触られてすらいないのに、竜児に世話を焼かれているというだけで、ただそれだけのことでこの上なく幸せだったのだ。しまりのない口許を見られずに済んだのも、それこそ幸いとしか言いようがなかった。
 向いていないのだ。素直じゃないのは自分の専売特許だと思っていた。というより逆に、これまでは素直に自分の気持ちを表す術を知らなかったのに、一度あっさりとその気持ちを認めてしまってからは、つかえが取れたように感情がストレートに零れだしそうになる。
 だって仕方がない。相手は竜児なのだ。素直に考えてみれば、竜児は最高だ。優しいし、面倒見はいいし、気遣いもできるし、料理も上手、ちょっとくらい鈍感であったからといって、そんなのは大した問題じゃない。
 何より一番大事なことは、大河が安心してその傍らに居られるということだ。
 信じがたいことだ。まさか、自分が心を許せる男がいるなんて考えもしなかった。北村のことは好きではあったが、竜児は別問題だった。大河にとって竜児は、陽だまりみたいなものなのだ。竜児と一緒なら、胸が苦しくない。竜児と一緒なら、身体の力を抜ける。安心できるのだった。
 そして何より、自分はここに居ていいのだと思うことができた。竜児だけは、自分の全てを認めて、受け止めてくれる。
 そんなことは最初から分かっていたのに。何をしていたのだろう。意地を張って、強がって、喧嘩して、傷つけて。戻ってくる場所は、竜児の側以外にはどこにもなかったのに。
 全然ダメだ。理性ではどう思っていようと、本心は偽れない。肋骨の中で暴れているこの感情は、どんなズルをしてでも竜児を手に入れろと喚いている。早く早く、今すぐにと大河を急きたてる。
 竜児が好きなのだ。もうどうしようもない。
「ああ、そういえばさ」
「……なあによ」
「北村のことだけど」
「え」
 ああ。
 大河は頭を上げた。
「うっそ、やだ、うわ、ひどい。私忘れてた」
 愕然たる思いで竜児を見る。向こうも実に気まずそうな顔で大河を見返している。
「おいおい……って、まあ俺も人のこと言えねえけど」
「……言葉もないわ……」
「なんか……なんだろうな、いっぱいいっぱいだったもんな……」
 仲よく明後日の方向を見つめること暫し。
 ごめんね、北村くん。
 すまねえ、北村。
「で、北村くん」
「ああ。なんかよく分かんねえんだよ」
「はあ!?」
 竜児は下校時の北村の様子を話した。もちろん自分と大河に関することは巧妙にぼかしながらではあったが。
「まあ、なんだかよく分かんねえんだけど、いいんじゃねえかな。取り敢えず元気にはなったみたいだし(?)」
「あんたね……」
「しっかし一番驚いたのは北村に好きな人がいるってことだよ。ある意味では納得って感じだが」
「……だから振られたって言いたいわけ」
「え!? い、いやそういうわけじゃ……」
 竜児はうろたえたが、何てことのない顔をした大河を見て、意外そうに目を細めた。
「……驚かないんだな」
「まあね。忘れちゃってるくらいだし」
「ふう……ん」
 告白してくる。そう宣言し、北村は学校へ駆け戻っていった。つまり、その想い人は校内の人物で、放課後も学校に残っている人ということだ。
 竜児はさっぱり思いつかなかったけれど、大河は何となく察しがついていた。
「告白……したのかな」
「したんじゃねえかな。あいつのことだし」
 目が合って、揺らいで、どういうわけかそのまま絡みあう。
 いけないいけない。大河は頬杖で顔を隠そうとするが、竜児から視線を外すことができない。竜児は竜児で、顔が熱くなる。
 大河には話さなかったが、竜児もそれに関しては答えてしまっているのだ。それも肯定の返事を。二人の気持ちは、お互いの親友だけが知っていて、同時に、当人同士も確かめあえないままに感づいている。
 それぞれの思惑で、たったひと言が、まだ言えないのだ。

2009/11/19