kidding

「ふあ……」
 あくびの漏れる午後三時。外は珍しい梅雨の晴れ間で、暑くもなく寒くもない。開け放した窓から入ってくる風が気持ちよくて、横になってるとついつい眠くなる。
 漫画から目を上げると、ベッドに寄りかかってドラムの教本を読む澪の頭が見える。そんな面白いかな。
 また窓を見る。こんないい天気なのに、二人して別々に本なんか読んで。まあ悪くは、ないけど。
「みーおー」
 けど、ちょっぴり退屈だ。
「んー」
 ほんとに聞いてるんだか、気のない返事を聞いて起きあがる。ぺらっとページをめくる音。
「ひまー」
 見えないけど本から目を上げた気配がする。でもこっちは見ない。
 見てよ。
「律が先に漫画読みだしたんだろー」
 あ、また落ちた。ページをめくる澪の長い指。顔が見えない。
「構ってよ」
「どう」
「どうって」
 私は口をとがらせて澪の後頭部を睨んだ。構えっつったらそりゃ、いろいろあるじゃん。そりゃ、漫画開いたのは私が先だけど、だってよくあるじゃん、遊びにきてんのに、別々のことしてんの。すぐそばにいるし、いつも一緒だから、そんなことよくあるし。ちょっと振り向けば届くんだから、こっち向いてよ。
「みーおー」
「んー」
「とりゃあ!」
「うわっ」
 中々振り向かない澪にもたれかかる。ふわっとシャンプーの匂い。
「かまえよー」
「いきなりなんだ、びっくりするだろ!」
 澪の頭に顔をすり寄せて、腕を回す。身体ねじれてちょっと苦しい。
「澪がかまってくんないからだろー」
「はあ……」
 やっと澪は本を置いた。ベッドの上から抱きついた私の腕に手を添えて、こっちを振り返る。
「ほら、本は置いたぞ。どう構ってほしいんだ?」
 黒髪がはらり。白い首すじが半袖パーカの中に消えていく。
「そう言われるとどうってほどのこともないな」
「なんだよそれ」
 こっち見ててくれるんなら、それでいいんだ。
 手をつつっと上げて澪の喉もとへ。細い顎に指先を這わせるとくすぐったそうに身体をよじる。
「……なんだよ」
「なんでしょうねー」
 すべすべの頬を撫でて、下へ。首すじを往復。
「やめろって」
 ちょっと戸惑った声。振り返ろうとするつむじに顔を乗せて鎖骨に触ると、澪の身体が小さく跳ねた。
「律」
 逃げるみたいに身をよじる。もうちょっと。鎖骨の端まで辿って指は服の中。
「……やめろってば!」
「はーい」
 怒りそうなところでぱっと手を離す。澪はやり場に困った拳を仕方なく鎖骨に置く。
「……律」
「なに?」
 また寝ころんだ私に振り返った澪の頬はほんのり赤い。怒ってはいない、ぎりぎり。それどころか、その目は「もうやめちゃうの?」みたいな物足りなげな色。たまんないんだから。

(2009/08/12)

upるの忘れてました。