こよみナイトメア
02
折角早起きしたというのに、気分が晴れない。妹たちは驚いていたが、別に嬉しくもなんともなかった。 母の日を、あの日を思い出す。 自分の人間の小ささにうんざりして当て所なくマウンテンバイクを走らせた。 そのお陰で、というべきか。 或いはいずれ必ず訪れる機会が単にその日になったというだけの話かもしれないが、ともかくその日、五月十四日、僕には恋人と友達ができた(そのあとマウンテンバイクはおしゃかになってしまったが、それでまた友達が一人増えた)し、何だかんだ妹たちとは和解できた。 憂鬱に始まった一日が憂鬱に終わるとは限らない。そういう寓意に満ちた経験談で自分を励起しようと図ったのだが。 今ひとつ、揮わなかった。 あの日事態が好転したのは、憂鬱な気分を上回るもしくは忘れさせるほどに劇的な出来事が起きたせいでもある。だから、今日何か起きれば、ひょっとして万に一つくらいはこの陰鬱さを薄めることができるかもしれない。もちろん、それが肯定的で、日常の域を出ない出来事に限った話だ。 もしそれが非日常の領分であったら、忍野の去った今残された僕たちにそれを何とかする力は無きに等しい。より大きな不幸が今までの不幸を些末事に変えてしまうような、痛みを別の大きな痛みで紛れさせるような泥沼な対処療法なんて、全くもって御免蒙る。 或いは、既にコトは起きているのかもしれない。 「おはよう! よい朝だな、阿良々木先輩!」 通学用という区分も最早虚しいママチャリを押して門を出ると、朗らかな挨拶が出迎えた。 「……神原」 驚きともつかぬ態度に神原は訝しげに眉を顰めた。 「なんだ、つまらないな、驚かないのか」 「あ、いや」 案ずるより生むが易しというか、気鬱の遠因は避けようもなく迎えにきていた。 「どうかしたのか?」 「うん。何だか早く阿良々木先輩に会わなければいけないような気がしてな」 神原はあくまで爽やかだった。こいつから爽やかさを除くと変態しか残らないから、爽やかさは神原にはなくてはならないものではあると思うのだが、逆に爽やかに言えば何でも許されると思い込んでいるのかもしれない。 「お前そんな理由でわざわざ来たのか? 今日は珍しく早起きしちまったからこんな時間に出たけれど、普段はもっと遅いんだぜ? 何となく、で何時に出てくるかも分からない僕を待つのなら、あらかじめ連絡くらいしてくれたらよかったのに」 「私は阿良々木先輩の電話番号を知らないのだ」 そういえば神原の携帯って、僕と通話するためだけに買った割には僕の番号登録されてないんだっけ。 「着信履歴があんだろ」 「ほう、私の携帯にはそんなに便利な機能があったのか! 通話さえできれば構わないと言って購入したものだから、全然知らなかった」 「いや、普通どの機種にもついてるから」 家電にだってついてるぞ。 あ。 旧家だとは思ってたけれど、まさか神原家の電話はダイアル式なのだろうか。 「まあそれはさておき、別に幾ら待とうと構わなかったのだ。ストレッチなり筋トレなりストリーキングなり、時間を潰す有益な手段は色々あるからな」 「さりげなく爽やかに言えば見逃されると思ってんだろ! 僕の家の前で何をする気だ!?」 などと話しながら歩いているうちに、どうやら少し気が軽くなってきたようだった。元々僕の気にし過ぎだった節はあるが、神原は見事なまでにいつも通りで、僕に気まずさを感じさせる暇も与えてくれなかった。 「私とて滅多なことでは野外で脱いだりはしない」 「そうか、見直したよ」 「なぜなら着衣の方がエッチだから!」 「見下げ果てたよ!」 何だか思い悩むのが馬鹿馬鹿しくなってきた。本当はあの夢に戦場ヶ原は関係なく、ただ単純に神原がエロいから変な夢を見てしまっただけなのではないだろうか。大事には至らずに終わったところから見ても、いつも通りのやりとりの延長に過ぎなかったのかもしれない。 僕が童貞だからその先の行為のイメージが尽きてしまっただけという可能性も大いにあるけれど。 たぶん、神原が淫夢だなんて言うから、発想があらぬ方向に逸れてしまったのだろう。 「で、僕に会ってどうするんだ? 僕が夢枕に立って僕に会えと言ったのか?」 「ああ、いや、私は夢を見ないタチなのだ。覚えていないというべきか……今朝は妙に早起きしてしまってな、そうしたらこう、漠然と阿良々木先輩に会わねばならないような気がして」 「そうかよ。ま、別にいいよ。お前と話すのは楽しいし、こうしてのんびり歩くのもたまには悪くない」 「そういって頂くと嬉しいな。……あ、分かったぞ」 「なにが?」 神原は実に嬉しそうに白状した。 「きっと寝るとき枕の下に阿良々木先輩の写真を敷いていたせいだ」 そのときの僕はきっと余りにも間抜けな顔をしていたはずだ。神原がそれに気づかなかったのは果たして幸いと言えるのかどうか。 「その写真は僕をストーキングしているときにでも撮ったのか?」 「なんと、ご明察だ。流石は阿良々木先輩。私のような凡愚には及びもつかない、海よりも深い洞察力をお持ちだな!」 「いや、別にテキトーだよ。仮にストーキング中じゃないとしても、どっち道盗撮だけど」 そこはかとなく嫌な予感がするのは、神原の変態的行状のせいではない。 神原が僕に何をしたって一向に構いはしない。 だから、僕が今考えている状況と関わりがあるかどうかは分からないのだ。 僕は神経質になっているようだった。昨夜の夢がそんなにショックだったのだろうか。 「どうせ戦場ヶ原の写真も一緒に敷いているんだろ」 「なんと」 神原は立ち止まり、僕に詰め寄ってきた。 「驚いた! そんなことまでお見通しなのか! 阿良々木先輩はやはり計り知れないお人だ! いやはや、畏れ入った。お見それした。今後一生命果つるまで阿良々木先輩についていくことを、今改めて誓おう!」 「改めなくても誓われた記憶がねえよ」 偶然。 偶然だろう。 神原のやることであれば想定の範囲内だ。神原のやりそうなことという認識があったればこそあの夢の設定になったわけで、あの夢がまた翻って現実の推測にも影響し、偶然の一致を見たに過ぎないのだろう。 偶然の一致。 それ以外に僕はこの事態を説明する言葉を持たない。 というか、考えたくない。 まだ大丈夫。 一つや二つが合ったとしても、夢の内容が現実と二三合致したくらいで、何を疑う必要があるというのだ。僕はやはり過敏になりすぎなのだろう。 「無論、阿良々木先輩が望まないのなら、私が一生阿良々木先輩にお仕えすることが、阿良々木先輩のご迷惑になると言うのなら……誠に寂しい限りではあるものの、私は潔く身を引く所存ではあるが……」 胸を寄せるように手を組み、遠慮っぽく斜め下に視線を落とす神原。眉もまた切なげに寄せられる。 それは、ずるい。 それは……ひどく可愛いじゃないか。くそう。 「いつも頑なに自己主張しかしないくせにこう言うときだけ急にしおらしくなるんじゃない! 分かった、分かったからさりげなく胸を強調するのはやめろ!」 「邪魔ではないということか?」 といいつつ神原はより胸をぎゅっと寄せ――あ、見なければいいのか。 「ああ、邪魔なんかじゃないよ。僕はお前と喋るのが楽しいんだ。末永くお付き合いしたいもんだな」 「そうか!」 神原はぱあっと効果音をつけたくなるほどのとびっきりの笑顔になった。 女はズルい生き物だと思った。 「そうなんだ。ズルいだろう」 「勝手に人のモノローグを拾うな」 ていうか自覚してるんだ。 「えっと……何の話だっけ」 「おやおやお忘れとは。阿良々木先輩が初めて買ったエロ本の思い出話を、早く続けてくれ」 「あ、そっか。あれは緊張したなあ。思えば全くもって警戒のし過ぎだったよ。別に誰も誰がどんなエロ本を買おうが気にしてないってのにななんて話はこれっぽっちもしてねえよ!」 「珍しくノリツッコミなのだな」 「やれやれだ」 時々不意に、思いがけず、何かを思い出そうとするとつい、頭に手を突っ込んでしまいそうになることがあるのだが、今回は幸い普通に思い出せる。例えできたとしてももうやろうとは思わないが。 脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜる吸血鬼の顔を思い出すと今でも吐きそうになる。 「神原、お前夢は見ない、覚えていないって言ったよな」 「うん、殆どな。正確に言えば、うっすらとではあるが断片に覚えていなくもないような気もするけれど」 「僕は昨日神原の夢を見たよ」 神原を見た、というか神原が出てきたという方がニュアンスとしては正しいかもしれないが。 「それは嬉しいなあ! やはり何やかやと言いつつ、阿良々木先輩は阿良々木先輩なりに私のことを想っていてくださるのだな……」 神原はスキップを始めた。一歩一歩の歩幅が大きくて、自転車を押す僕はあっという間に置き去りである。 「言われてみれば」 数歩で振り返る。 「こう、漠然とした記憶ではあるのだが……私の夢にも阿良々木先輩が出てきたような」 「…………」 「うん、出て……きた。そうだ、夢の中で阿良々木先輩と楽しいことをしたような気がするな」 「楽しいことねえ……」 僕の夢の中では確かに楽しそうではあったが。 「で、阿良々木先輩は私のどんな夢を見たのだ? 淫夢か?」 ガクッと、首が落ちる。 「ちょっとは他の発想ができないのかお前は!」 「できない!」 断言した。僕の後輩は今自らの発想がエロ方面以外にありえないことを断言しやがった。 「忍野さんも褒めてくれたのだ。私はエロキャラだと」 「それが褒め言葉に聞こえるお前の思考構造が羨ましいよ!」 ていうか本人に言ったのか……忍野の奴。 「エロといえば私、私といえばエロ。エロは私のアイデンティティ。いや、レゾンデートル!」 「お前の存在意義はエロいことだったのか!?」 三大欲求のどれ一つをとって存在意義と主張したところで中々奇異なものだが。 よりによって性欲を選ぶか。 「当然だ! 私からエロを取ったら一体何が残ると言うのだろう!?」 「爽やかスポーツ少女でいいじゃん!」 朝の通学路でエロについて大声で舌鋒を交え、唾を飛ばしあう二人の高校生が、そこにいた。 ていうか、僕らだった。 「ああ、先日の議論だが、あれから私なりに考えてみたのだ」 「何だよ」 「あのときは私が露出狂の変態か、スポーツ少女か、それは見るものによってどちらとも言えるのだ、と話したと思うのだが」 「今の開票情況だと変態の方に票が集まりつつあるぞ」 「それもそうなんだが、つまりな、私はどちらか一方や、場合によってどちらとも取れる存在ではないと思うのだ。私は表裏一体、変態でもありスポーツ少女でもある。変態的スポーツ少女なのではないのだろうか!?」 「それはつまり運動能力の高い変態ってこと?」 「そうとも言えるな」 それって要するにただの変態じゃないのか。 品のない議論の間を余りに爽やかな風が吹き抜けていった。 「で、本題に戻るが、阿良々木先輩は昨晩見た夢の中で私にいらやしいことをしたのだな?」 「付加疑問文かよ!」 「照れなくてもいいんだ。夢の中だけとは言わず現実でも阿良々木先輩は私に好きなことを好きなだけしてくれて構わない。阿良々木先輩にはその権利がある」 「気持ちは嬉しいけれど謹んでお返しする」 「何ともはや、戦場ヶ原先輩も仰っていたが、阿良々木先輩は本当に無欲なんだな」 「そこで欲を出したらダメだろう……人間として」 神原はまた腕を組む。 「しかしここまで欲がないとなると、阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩とのお付き合いにも不安を抱いてしまう」 「僕の男性としての能力に問題があると言いたいのか!?」 「ちょっと確かめさせてくぅわお!」 しまった。 思わず手が出てしまった。 僕は自分の拳骨を見つめた。神原が僕の股間に手を伸ばしたのでつい後頭部にいい一撃を食らわしてしまったのだ。神原は頭を押さえて蹲っている。子供の体罰を認めるわけではないが、女子高生を殴るって道義的にも社会的にも小学生と本気で取っ組み合いするよりヤバい画な気がする。 「か、神原、悪い、反射的に手が」 今更というタイミングで謝ると、神原は九・五カウントで立ち上がったボクサーのようにゆっくりと顔を上げた。 笑っていた。 「もう一発!」 「怖ッ!」 「ひ、平手でいいから!」 「嫌だ! 怖いよこの人!」 僕は素早く自転車に跨ると、熱っぽい眼差しで迫る神原を振り払ってペダルに力を込めた。 さらば神原! もう会うこともあるまい! 短い間だったが楽しかったぜ! お前のことは忘れない! 「まあまあ、阿良々木先輩、落ち着いて。どうどう」 「落ち着くのはお前だ!」 果たしてそれは無駄な努力であり。 自転車から引き摺り下ろされた僕は逃げられないように腕を絡め取られてしまった。 「女の子をその気にさせたからには責任を取るべきだ!」 「殴られてその気になる女の子なんて想定してねえよ! 知らねえよ! っていうか話が進まないよ!」 もし資格制度が存在するとしたら神原は間違いなく話を混ぜっ返すプロだ。 もっとも僕がそれほど真剣に話を進めようとしているように見えないのも一因なのだろう。 実を言うと少し怖いのだ。 神原と僕は全く同じ夢を見たのではないのか? それも、内容が同じというだけではなく、現実ではない、夢の世界とでも言うべき場所で実際に会っていたのではないのだろうか。 非現実的な話だけれど。 非現実的な話なのだけれど、春休みからこの方脱臼癖のように怪異に遭遇し続けた僕としては、そんな可能性を想定してしまうのも無理のない話だと思う。 この世界には―― 齢五百の吸血鬼やら、ヴァンパイアハンターやら―― 重みを奪う神様やら、迷子の地縛霊やら―― そんな不思議なものが、どこかに存在しているのだ。 「夢の世界」のような、眠っている間精神が訪れることのできる場所が、これまたどこかに存在していたとしても信じられてしまう。 そんな非現実的な話を聞かされても簡単に信じられてしまう。 それほどの経験を、僕はしてきたのだった。 「話を戻すけれど、神原、夢ってのは誰でも見ているけれど、それは単に起きたとき覚えているか覚えていないかの違いらしいぜ。ということはつまり、思い出せないだけで記憶はしているはずなんだよ」 「理屈は分かるのだが……だからといって急に思い出せと仰られても困ってしまう。しかし阿良々木先輩はそんなに私の見た夢が気になるのか? それともまさか」 僕の二の腕を掴む手に力が込められた。今度は演技ではなく目が伏せられる。 「怪異……なのか?」 「そういうわけじゃない、と思う。たぶん、今のところは。ごめん、僕が回りくどい言い方をしすぎたんだ。僕の考えすぎだと思うけれど、ちょっと気になったからさ」 「……そうか、だったら、いいんだが」 同じく怪異を経験した身ではあるが、僕と神原の間では怪異に対する態度に温度差があるようだ。性格の差も経験の差もあるのだろう。 神原は出来れば怪異には係わりたくない様子だ。 まあ。 普通はそうなのだけれど。 僕みたいに、ついつい怪異を見つけては首を突っ込んでしまう人間の方が間違っているのかもしれないけれど。 それでもやはり、怪異に誰かが係わっていて、その誰かが困っているのを知ってしまうと、係わらずにはいられないのだ。 それもやはり、仕方のないことだ。 それで散々な目に遭って、自分以外の人も傷つけて、危険に晒して、挙句この吸血鬼もどきのような身体になってしまったとしても。 けれど神原は、最初は小学校四年生、或る意味それからずっと潜在的に怪異――レイニーデビルと付き合ってきて、人を傷つけ、あまつさえ殺しそうにすらなったのだ。 しかも無意識とはいえそれは自分の願いで、レイニーデビルを「猿の手」だと思い込んでいた頃は、その願いを、本人の望まない形で叶えられるその願いを成就させないために、必死の努力を強いられたのだ。苦手なものをすぐに克服しなければいけないという状況がどんなに辛いものであるかは想像に難くない。 それが今の神原を作ったのだという議論も成り立たないではないけれど、本人も決して手放しでは喜べないだろう。 結果オーライと言うには、余りに重過ぎる過程だ。 怪異は、それだけのものを神原に残した――いや、与えた。 神原の魂の何分の一かと引き換えに、神原の無意識の願いを叶えたのだ。それはあくまで無意識レヴェルの話で、神原は人を傷つけることなんて望みたくはなかったとしても。 だから神原は、ひどく後悔している。 「猿の手」に願ったことを。 レイニーデビルと取引してしまったことを。 その後悔がいかに深いものであるかは、僕に対する神原の態度からも分かる。神原は僕が神原を、命を懸けて、いや命を捨てて救ったのだと思っているのだ。よくても救おうとした、くらいの、気休め程度にしか、僕は役に立たなかったのだけれど、いずれにしろレイニーデビルが左腕から去ったことが、本当に嬉しいみたいだ。 過分に理想化されているとはいえ、だからこそ、「大好きな先輩を寝取った男」であったはずの、殺したいくらい憎んでいた僕に、それこそ掌を返したように懐いてしまっているのだろう。 その僕が、どうしようもなく怪異に首を突っ込んでしまう人間だから、神原も彼女の言葉を借りれば、できれば避けて通りたい怪異を「よしとできる」のだと、勝手ながら僕は思っている。 「ごめんな、神原。できればお前を巻き込みたくはないんだけれど、もしかしたら、ひょっとしたら万が一お前にも係わりがあることなのかもしれないから、一応言っておいた方がいいと思ってさ」 「何を言うんだ、阿良々木先輩。水臭いぞ! 阿良々木先輩とならば、火の中水の中、あの娘のスカートの中までもどこまでもお供する所存だ!」 「ポケモンか、懐かしいな……」 神原のあけっぴろげな笑顔を見ると本当に安心する。 これで怪異でも何でもなく、ただの僕の欲求不満なのだとしたら、それこそ脳みそをかき混ぜて記憶を消し去りたいくらいの恥なのだけれど、でも、そっちの方がいいに決まっている。 怪異でも何でもない方が、断然いい。 「おや、学校に着いてしまった」 「ああ、話してるとあっという間だな」 少し時間が早いこともあって生徒の数は疎らだったが、部活の朝練なのかグラウンドを駆けているジャージ姿が見える。神原もきっと左手に包帯を巻く前はそうしていたのだろう。僕の吸血鬼能力と同じように神原の左手に残った、怪異の後遺症。 ――猿の手。 「話の続きを聞きたいのに。どうしたものか」 「放課後でよければ戦場ヶ原と勉強会だから、その前に時間を」 「サボるか」 神原は僕の肩に手を置き、片目を閉じてグッと親指を立てた。その不敵な笑いは我が後輩ながら実に頼もしいのだけれど。 「僕は出席日数がヤバいんだ。遠慮しておく」 「あー、そうだったな。残念。そうだ、阿良々木先輩、私の家はお金持ちだぞ」 「いや、知ってるけど」 「阿良々木先輩の出席日数、お金の力で何とかしようか?」 目が、マジだった。 「…………遠慮しておく」 |
09/10/07(F)
09/10/20(L)